夏休みに旅行がいけない事件発覚から数日後。
防大の夏の制服姿は白くてまぶしい
わたしの夏休みに遅れること一週間ほど、彼の夏休みも始まりました。
いつものように駅で待ち合わせをして、いまかいまかと待ちわびます。
(私服かな?それともあの紺色の制服かな?)
それにしても久しぶりの再会です。
付き合って暫くたっているのに、緊張してしまうのは防大あるあるかもしれません。
それもそうだと納得するくらい私達は会えていないのです。
「おーい!とお子さーん」
彼の声が聞こえました。
「…えっ」
小走りに近付く彼は真っ白です。
いや、肌の色はより日焼けしているけど…
とにかく真っ白だった。
「…制服変わったの?」
「うん。夏だから2種(にしゅ)だよ」
“彼”はすんなりと答えます。
流行りのオールホワイトコーデも真っ青の真っ白さで。
ぴかぴかに磨かれた真っ黒の革靴…『短靴(たんか)』が真っ白い制服に浮いているようにも見えます。
「久しぶりだから下宿寄るのも惜しくてきちゃった」
とちょっと照れたように言われたら、もうなにも文句は言えないのですが…
何せこの一月ろくに連絡もとれなかったのです。
「夏期定期訓練」で彼は神奈川を離れていました。
「爽やかだね、白い」
「汚れやすくて大変なんだ…」
たしかに、あの紺色の制服に比べたら…白は危険かもしれません。
学校制服ではあまり採用されない色でしょう。
胸元にきらきら光る金色の桜は、紺色の時と同じ数。
こういうところは自衛隊らしいです。
「娑塲(シャバ)」はく基地の外を表す言葉らしい
「…とりあえず、座る?」
「うん。久しぶりだな~娑場は」
出所したばかりのような言いぐさですが、彼によると「娑塲(シャバ)」は自衛隊員がよく基地の外を表す言葉としてよく聞かれるらしいです。
ちょっと物騒ですね。
目がちかちかするくらい白い制服を見つめながら、彼の声に耳を傾けます。
カフェのテーブルに置かれた帽子も白く、夏を感じさせてくれます。
「ちなみに夏のパレード(月例行進)のときは冬の紺色の形で真っ白になります」
「そこまでいくとコスプレみたい」
あの常装の学ランのような形で、真っ白。
想像すると、着る人を選ぶ姿のようです。
芸能人みたいな細身の男の子や、モデルのようなきれいな女の子なら様になるのかもしれませんが、個性的すぎます。
「ねえ…もう制服って変わらないよね?」
「え?うん。常装(紺色)と2種だけだよ」
もう、びっくりさせられることはなさそう。
夏は、白とともにやってきました。