卒業ダンスパーティも終わり、いよいよ彼が防衛大学校を卒業する3月が近づいてきました。
防衛大学校を4年生の彼氏を持つと、1月〜3月の流れはこんな感じ…です。
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卒業準備と真夜中の防衛大?!
「久しぶり〜」
彼が、海を背に手を振っています。
横須賀、ヴェルニー公園でいつもの日曜日のデートです。
東京からは小旅行の距離ですが、彼も卒業研究(卒論)や任官の準備で忙しいのでもっぱら横須賀でのデートが増えていました。
着替える時間が惜しいらしく、制服姿です。
「元気?少し、痩せたんじゃない?」
ひんやりとした冬の海風に、何故かこの時期でも日焼けしている頬が少しやつれたように見えました。
「うん…卒研も忙しいんだけど、卒業式の練習とか、増えた部屋会とか、毎晩遅くまで起きてて…」
「ええ…」
「朝は変わらずラッパで6時だけど…」
二人でヴェルニー公園の、海が見えるようにいくつか配置されたベンチに腰掛けました。
2、3年生ならあまりしなかったような目立つ行動も最近彼はよくします。
「部屋会」とは、大隊の中で同じ部屋で寝起きするメンバーでする飲み会のことです。
外で飲む場合もありますし、深夜、部屋の中でこっそりご飯やケーキを食べたりするそうです。
部屋員は1年生から4年生までいますが、さすがに部屋内では優しく、みんな仲良くやっているそうです。
「なんだか楽しそう」
「楽しい部屋会もあるけど、1年生がお世話になった4年生に“お礼”したりがあるから、騒がしいこともあるよ。裸で行進してるやつとかもいたし…」
「…防衛大らしいですね」
やっぱり何年付き合っても、普通の大学生活では縁のない言葉やエピソードが彼の口からバンバン飛び出てきます。
防衛大学校卒業式とそれぞれの進路
「卒業式の準備は忙しい?」
普通の大学生の卒業間近といえば、女性なら袴を選んだり、謝恩会のドレスや、友達との卒業旅行など、社会人になる前の不安とわくわくがありますね。
でも、防衛大学校は、やはり、気を抜けないようです。
「うん。永遠に立ったり座ったり、賞状の持ち方とか、歩き方とか、決まりがあるんだ」
なんでも、卒業式にはvipや大臣がくるのでとても厳しいようです。
「やっぱり鈍臭いやつがいて、歩き方がどうしても揃わなかったり」
「防大生にも、そんな人いるんだね」
「いるよ〜」
二人で話していても、どこかそわそわします。
お互いに、3月、卒業式が終われば、そう簡単に会えない距離になるのをひしひしと感じていましたが、いよいよ現実になってしまうのです。
「任官拒否する奴は、完全に卒業式準備時間はオフになるから、羨ましいな」
「そんな…就活とか、新生活とか、忙しいはずだよ」
「そうだなぁ〜でも、自由なの、いいよなぁ」
彼が、珍しく、着席しているとはいえ、野外で帽子を脱いで、ため息をつきました。
帽子の金色の校章が、夕日にきらきらと光っていました。
彼のことだから、靴同様、ピカピカに磨いているんでしょう。
「やっぱり怖いよ」
「うん」
「幹部になって、部下を持つなんて、俺にできるのかな?」
防衛大学校を卒業した学生たちの進路
防衛大学校を卒業した学生たちは、大きく二つの進路があります。
一つは、陸海空、自分の要員いずれかの幹部となるためそれぞれの幹部候補生学校への進学。
もう一つは「任官拒否」をして自衛官にならず、民間の企業か家業、もう一度進学するかです。
防衛大学校は昔、大卒の学位を得られなかったので、4年間は経験しか残りませんでしたが
現在は民間の学位認定機関からしっかり学士を得られるので、防衛大学校で培ったタフな精神を活かして、名前を聞けば驚くような大企業に就職する学生もいるそうです。
しかし、やはりこの任官拒否は、防衛大学校の性質からあまり世間では褒められません。
でも、4年間同じ苦労をした仲間である彼は、いくら冗談で羨ましいと言っても、民間へ行く仲間を悪く言う事はありません。
「民間企業へ防衛学を学んだ人間が行くのはいいこと」「自主独立の精神に沿っている、進路は自由」と言う人もいました。
「きっと大丈夫だよ。まだ、幹部候補生学校もあるんだし」
「うん…学ぶ期間は違うけど、民間大学から来る同期もいるから、心配だよ」
「そうなの?」
「偏差値が段違いだからさ」
なんでも陸海空の幹部候補生学校に入学する民間大学出身者たちは、とてつもない倍率を勝ち抜いてくるエリートだそうで、
訓練では防衛大学校出身者が圧倒するものの勉学では彼らに教わる…という現象もあるそうです。
「そんな、別に戦うわけじゃないんだし…仲間になるんだよ」
「うん…」
同じ防大生の彼氏や彼女を持つお友達に聞いたところ、この頃の彼・彼女らはみんな愚痴っぽくなっているようです笑
励ましてあげてください!笑
「あと…」
「なに?」
「浮気しないでね…」
真剣になにを言うかと思えば…
「しないよ!今だって、完全寮生活なのに、してないでしょ?」
「でも、会社に入ったら自衛隊にはいないようなかっこいい人もいるだろうし…」
彼が、制服でいつもより広くなった背中をしぼませて呟きます。
幹部になった先輩が、そんな経験でもして、話を聞いたのでしょうか。
「も〜、心配なら、暇なときは連絡して、会いに来て!」
本当はいけないのに、制服姿の彼の手を握って、励ましました。
珍しく、彼も手を握り返してきます。
相変わらず、大きくて、マメだらけの手は、ひんやりとしていましたが、きっと、ずっと、こうして彼と、手を取り合って生きていくんだろうなと、あても無い想像が広がります。
「そうだ!忘れてた!これ」
「?防衛大学校を…学長…?」
彼が葉書をわたしに渡してきました。
厚い葉書には、いかついお名前が記されています。
「卒業式の招待状」
「え?!?!」
「来てくれ!」
寂しさが、緊張に負ける予感がしました。
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